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2022.12.07
源平の内乱や平家一族の盛衰が描かれた『平家物語』。800年以上の時を経た今でも忘れ去られることはなく、その生き様をモデルに近年では大河ドラマ『鎌倉殿の13人』やTVアニメなども制作されている。
『平家物語』の後半では、数え年で8歳の安徳天皇が祖母と入水する場面が描かれ、悲劇的な最期を迎えた天皇として記憶している人も多いだろう。
しかし、徳島県の三好市では「実は安徳天皇が生き延びていた」という逸話が残っているのだ。今回は「もうひとつの平家物語」が語り継がれる徳島の秘境を訪ねた。
【前回までの記事はこちら】
>>徳島県三好市の秘境・祖谷に伝わる逸話|『平家物語』には続きがあった?Part1
>>徳島県三好市の秘境・祖谷に伝わる逸話|『平家物語』には続きがあった?Part2
>>徳島県三好市の秘境・祖谷に伝わる逸話|『平家物語』には続きがあった?Part3
吉野川の中流域あたりには「大歩危(おおぼけ)」と呼ばれる渓谷があり、観光地として人気のスポットだ。
ただ、せっかく同地を訪れたのであれば、大歩危からほど近い場所にある「平家屋敷民俗資料館」にも足を運んでみてほしい。
冷涼な空気が漂い、奥へと続く階段には鮮やかな色合いの苔が蒸している。
周辺の景色を楽しみながら歩を進めるうちに、趣ある門が見えてきた。
厳かな気持ちを抱きつつ門をくぐれば、静まり返った空気の中、ひと際に存在感を放つ家屋が顔をのぞかせる。
小鳥の囀りが遠くに聴こえ、土や草木の懐かしさを感じる匂いに抱かれ、まるでタイムスリップしたのかと思うほど歴史的な情緒を感じさせる。
そして、趣深い外観もさることながら、ぜひとも屋内にも足を踏み入れてほしい。
1867年に建てられた平家屋敷民俗資料館は、安徳天皇の御典医・堀川内記の子孫が暮らしていた屋敷。現在20代当主・西岡正義さんが管理しており、一般公開されている。
玄関の三和土(たたき)を上がり、すぐ目を引くのが欄間だ。
光の差し込み具合具合で隣接する白壁に影ができ、映る影の繊細さから上質な影絵を見るかのような趣向が凝らされている。
また、神物や庄屋、医者などのコーナーに分けて往時の文書や道具が展示されているのだが、中でも奥に備えられた囲炉裏も見所の一つ。
この立派な囲炉裏の上に目をやれば、艶々と黒く光る天井がある。
「長年にわたって囲炉裏を焚くことで、こんなに綺麗な色になるんです」と話す岸田さん。
天井だけでなく柱や箪笥も丁寧に拭かれ、黒に反射する光は柔らかい印象を与える。
縁側に腰掛けて風景を楽しんでいると、岸田さんが話してくれた。
「平家は都落ちして祖谷に移り住むことになりましたが、今でも子孫が生きているのは、彼らが強くしなやかに生きてきたからだと思うんです」
岸田さんは2020年に三好に戻り、同館の運営のバトンを受けた。平家のことを深く勉強し、代々伝わるもの達に触れていく中、不思議な感覚に囚われたという。
「この縁側でぼんやりしていた時に、ふっと彼らの姿を感じたんですよ」
【詳細情報】
平家屋敷民俗資料館
住所:徳島県三好市西祖谷山村東西岡46
料金:大人500円、子ども300円ほか
【HP】【Instagram】
次回part5では、平家も浸かったと伝わる温泉を訪ねる。
>>徳島県三好市の秘境・祖谷に伝わる逸話|『平家物語』には続きがあった?Part5
編集:男の隠れ家デジタル 文:菅堅太 撮影:井野友樹