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大歩危・祖谷

2024.09.22

妖怪と出会う旅:三好市山城町 ~水木しげる直筆の児啼爺石像がある妖怪の里・大歩危駅から始まる妖怪街道~

あなたの町にも、妖怪がいませんか?

日本全国各地に妖怪譚は残されており、 田舎にも都会にも妖怪は存在します。
都市部ですと、都市伝説的な側面も持ち合わせていますね。

「ゲゲゲの鬼太郎」や「妖怪ウォッチ」など妖怪を題材にした作品は数多く、子供から大人まで馴れ親しんでいると言っても過言ではありません。
日本人には、「ちょっと怖いけど日常に溶け込んでいて、実はすぐ隣にいるかもしれない存在」が妖怪です。

徳島県三好市にも、枚挙にいとまがない程の妖怪の伝承を今も語り継いでいる地域があります。

三好市山城町は、徳島県北部の最西端に位置する町です。
総面積の85%は森林で山間にあり平地が少なく、交通の難所でもありました。

昼夜の寒暖差が大きく、濃霧に煙る地形が茶葉作りに適している事から徳島県内最大の茶産地で、ここで栽培されたものは「大歩危茶」として三好市の特産品「三好の逸品」にも選ばれています。


自然の厳しさと隣り合わせの暮らしから生まれたのが、妖怪です。
危険な場所や自然災害などから人々を遠ざけ身を守るために、また自然を不用意に荒らす事のないようにとの戒めの面も持ち合わせていたのでしょう。

かつては1万人以上が暮らしていた山城町でしたが、平成18年(2006年)に三好市と合併した頃には約3分の1に。
地域の活性化を目指して妖怪伝説での町おこしを始め、整備されたのが妖怪街道(ロード)です。
妖怪と共に暮らす町として、伝説の残る地に住民の手で彫られた木像が置かれています。

今回は、妖怪街道(ロード)を実際に行ってみた道程と、そこにいる妖怪の紹介をしていきます!

大歩危峡まんなかから国道32号線を高知方面に向くと、すぐに藤川橋があります。
橋を渡って県道272号線に入ると、そこはもう妖怪の里です。

まずはのびあがりがお出迎え。


のびあがりは、出会うと見上げれば大きくなり見下ろすと小さくなる道の怪です。
何だかとんち話のようですね。

道なりに進み、左側に「妖怪の里コース」という看板を発見。


こちらに行ってみましょう。
川の近くなので涼しいですが、途端に山深い印象に。
それもそのはず、ここは元々はお遍路の道だったそうです。

赤子淵

昼なお暗いその淵に近づくと「オギャーオギャー」と赤子が泣く声が聞こえると言われており、声をたどって淵に下りても誰の姿もない。
昔は岩壁に石が立てられていたが、赤子の墓だったのではないかと伝わっています。

赤子淵の看板の上に、「妖怪古道」と「妖怪の里 車道」の文字が。


古道は徒歩でないと行けそうにないですが、車道もあります。
車道は車1台分ぐらいの広さがあり、軽自動車同士ならすれ違いも可能です。

山道の途中に、ヒダルガミがいました。


山道で空腹や疲れ、脱水などで死んだ者の霊と言われています。
医療が今ほど発達していなかった頃は、心身の変調も妖怪の仕業としなければやり切れなかったのかもしれません。
ヒダルガミに取り憑かれないように、水や食べ物をひと口分は残しておかないと1歩も動けなくなってしまうんだとか。
「ひだるい」は、「お腹が空いて動けなくなる」という意味の方言です。

大天狗の木像がある地点が、折り返しのようです。

「天狗の庭」と呼ばれる、相川・柴川・上名(かみみょう)の地域には天狗がいたと言われています。
頼広名(よりひろみょう)の半田岩には「天狗腰掛松」とその下に「天狗角力取場」があったと伝わっており、天狗達は腰掛松に座りその下で角力(すもう)を取っていたが、松が枯れると姿を現さなくなったそうです。

大天狗は、強力な神通力を持つ妖怪として有名です。
山岳信仰と結びつき、また平野部で暮らす人々が山に畏敬の念を抱き山で起きた怪異な出来事を「天狗の仕業」とする事で、天狗を山の神として扱うようになりました。
天狗と聞いてイメージする、修験者の恰好をし鼻が高く赤ら顔で羽団扇を持ち空を飛ぶ姿は、江戸時代以降のものなんだとか。

大天狗の像のそばは山の上の開けた場所なので、登ってきたご褒美のような綺麗な景色が広がっていますが、もしかしたら妖怪がこちらを見ているかも…?な気持ちにもなります。


折り返しまできたので来た道を戻り、藤川谷川沿いを進みます。
藤川谷川は、2023年に国の登録記念物に指定されています。

ドロメキ淵のエンコ


エンコは、この地域での「河童」のこと。
河童は、妖怪の中でも鬼や天狗と並ぶ程に有名ですね。

民話や逸話によっては「いたずら好きだが人を困らせるような悪さはしない」、「河童を助けた人間にお礼をした」などがあるようですが、ドロメキ淵のエンコは淵に近付く人や馬を引き込み尻子玉を抜くそうです。

尻子玉、ご存じですか?
昔、人の身体を解剖などしなかった頃に肛門にあると想像されていた架空の臓器で、尻子玉を抜かれた人間は「ふぬけになる」と信じられてきました。
「ドロメキ」とは、「轟くこと」を指すと言われています。

カワミサキ

死人の霊魂を「ミサキ」と呼ぶそうです。
川で死んだら「カワミサキ」、山で死んだら「ヤマミサキ」です。
鳥のように飛ぶ妖怪または神とも伝わっており、川に入って遊び過ぎると取り憑かれ動けなくなってしまいます。

7人ミサキ、聞いた事がありませんか?
海で溺死した亡霊の集団で、主に海や川などの水辺に現れるとされており、7人ミサキに遭うと死んでしまい、1人をとり殺すと7人ミサキの1人は成仏し、とり殺された人は入れ替わりに7人ミサキに加わることになります。
この7人ミサキの「ミサキ」もカワミサキの「ミサキ」と同じなんですね。

大きな一つ目の木像は、クモトリ淵の一つ目入道です。


淵の上の小屋に泊まり込みながら山仕事をしていた男が、疲れからうとうとしていると1匹の蜘蛛が男の足に糸を付けては出て入ってを繰り返していた。
その糸を小屋の柱に巻き付けて眠った男が真夜中にミシミシっという音で目を覚ますと、瞬く間に小屋は淵へと飲み込まれ、轟々と勢いよく流れる川の中に大きな一つ目の入道がいたそうです。
命からがら逃げだしたものの、男は帰らぬ人となっていました。

蜘蛛を使って人間を淵に引きずりこむ妖怪、中々悪どい!
しかも案内板には「大正14年8月2日の出来事」と具体的な日付が書かれています。
大正14年は1925年で、約100年前に実際にあった出来事として伝わっているんですね!

ここまで来て、「淵、多くない!?」と思いませんでした?
淵とは、川の流れが緩やかで深みのある場所。
川は曲がりながら流れており、流れの曲がった所の外側は洪水などで水量が上がった時に水が激しくぶつかり川底が深く掘られ、淵となります。
山を削り流れる内に曲がり、淵がそこかしこにできたのでしょう。

野鹿池の龍神


野鹿池(のかのいけ)は三好市山城町と高知県大豊町の県境にある標高1,294mの野鹿池山(のかのいけやま)の語源となった大池ですが、現在は湿地帯となっており石楠花(しゃくなげ)が群生し毎年6月には「しゃくなげ祭り」が開催されています。

大昔の野鹿池に住む龍神は時に人の前に現れ危害を加えることもあったのですが、この地を治めていた藤川氏が龍神を池の主として祀り、石垣で堤防を築く整備をしてからは害をなさなくなったそうです。
重機も無かった頃に川原から山の上まで大きな石を運んで堤防を築いた人に、龍神も心打たれたのかもしれませんね。
龍神は今も雨乞いの神様として祀られ「雨を乞えば必ず応ず」と言われるほどで、干ばつの年は香川県や愛媛県からも雨乞いに来ていたそうです。

児啼爺

言わずもがな、「ゲゲゲの鬼太郎」でお馴染みの児啼爺!
三好市山城町は「児啼爺伝承の発祥の地」として認定され、児啼爺の石像が建てられています。
台座の「児啼爺」は水木しげる先生直筆で、「児啼爺の碑」は京極夏彦先生によるものです。
JR土讃線大歩危駅では、駅長として訪れる人々を出迎えていますよ。


児啼き爺の石像から徒歩で約30分、車で約5分で藤の里公園に到着。
藤の里公園で、どうやら妖怪街道(ロード)は終点のようです。

名前の通り藤棚があり、川に下りられる階段もあります。
藤川谷川は本当に水が綺麗ですが流れは速いので、
近づけさせまいという気持ちも分かりますし、どこから妖怪が手をこまねいているか分かりません!油断大敵です。

藤の里公園一帯では、毎年11月に「妖怪まつり」が開催されています。
「妖怪バザー」と銘打った出店では地域食材を使った妖怪汁やうどんやそばなどの飲食物が提供され、妖怪大行列では児啼き爺や天狗達と記念写真を撮ることも出来ます。
普段は戒めとしての存在である妖怪たちですが、お祭りの日には地元を共に盛り上げようとしてくれるんですね!

もっと山城町の妖怪のことが知りたくなってきましたね?
では、「道の駅 大歩危」内にある「妖怪屋敷」へ行きましょう!


山城町は、2008年に水木しげる先生が会長を務めた「世界妖怪協会」から『妖怪文化の普及に貢献した地域』として「怪遺産」の認定を受けており、妖怪屋敷で認定証を見ることもできます。

営業時間:9:00~16:30(最終入場)
入館料:大人700円 / 小中学生350円 幼児無料
※妖怪屋敷と石の博物館はセットになっています。
※学生割引や団体割引等有り(チケット購入時に各種証明書・会員証等の提示が必要)
休館日:3月~11月無休、12月~2月火曜日休館(祝日の際は翌日休館)

ここで入館者を迎えるのは約60種類の妖怪たち!地元の方々による手作りです。
入ってすぐに、大天狗が見下ろしています。


地元の口調そのままの解説文はとても興味深く、「何で妖怪になったの?」と聞いてみたくなるような愛嬌のある妖怪もいて、推し妖怪だったりお気に入りの妖怪を見つけられますよ!
ただし、途中にある山城の坑道がちょっと(?)怖いのでお子さんは要注意かもしれません。

1番奥にある「閻魔大王の間」は圧巻です!


山城町には、閻魔大王にまつわる伝説も残っているんです。
地獄での呵責の様子や浄玻璃鏡(閻魔大王が亡者を裁く際に善悪の見極めに使われたとされる鏡)の下に、妖怪たちも集合しています。

閻魔大王の間の一角には妖怪クイズに挑戦できる機械が置いてあり、初級・中級・上級とそれぞれ5問ずつあるのですが、これが中々難しい!
全問正解で「妖怪博士認定証」がプレゼントされます。

出没したと言われている場所別に展示されているのも分かりやすいですし、妖怪街道(ロード)に行ってから妖怪屋敷に行っても、また逆も然りで妖怪屋敷に行ってから妖怪街道(ロード)に向かっても「これさっき見た!」と盛り上がる事間違いなし!

道の駅大歩危は、第1回・第2回の『四国妖怪フェスティバル』の会場になっており、全国各地から妖怪と妖怪好きが「怪自慢」を携え集結し、ワークショップ・トークライブ・怪談会・妖怪ジオガイドツアー、地元の飲食店による飲食物の出店もあり、妖怪コスプレをした参加者も多数来場し大いに盛り上がりました。
気になる第3回四国妖怪フェスティバルは、香川県小豆島で開催される予定です。

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